自社内の掲示版に、採用方針に関する通知が掲示されたのですが、まぁ酷い文章だったので取りあげておきます。元の文章そのままはまずいので改変してますが、それによって駄目さ加減が軽減してしまうのがほんと悔しい……。
箇条書きを読みながら読み手に内容を記憶させない
まずこれです。
新しい採用方式を取り入れることにしました。
これは
・会社のことを深く知ってもらうため
→ 掲載されている求人等では伝わりにくい部分、熱量というか温度を伝えたい
・いきなり応募ではなく少し興味を持っていただいた層とのコンタクト機会を増やしたり、ハードルを下げるため
・面接という選考の手前でお互いのことを知り合う機会が欲しいといったねらいからです。
新しい方式の採用の狙いを箇条書きにするのは良いのですが、この書き方だと「これは」を読んだ人は箇条書きの内容が一体何なのか分からないまま、延々と箇条書きを読まされます。そして、最後に「以上が狙いでした」と箇条書きが一体なんだったのかを知らされる。
だったら最初から「これは以下の狙いがあるためです。」などと内容についてかいつまんだ予告をし、その後に思う存分箇条書きで説明を書いた方が、読み手も安心して読み進められます。
それから「面接という選考の手前でお互いのことを知り合う機会」……目的語が長すぎます。そしてこれも「機会が欲しい」というやりたいことを伝えるまでに、読み手は下記の順序で言葉を脳味噌に蓄積しながら読み進めます。
- 面接という(……なに?)
- 選考の手前にある工程(面接を言い換え/修飾しているのね……)
- お互いのことを知り合う(……のが目的なんだろうか?なんだろう)
- 機会が欲しい(やりたいこと)
だったら「選考の手前で互いを知る機会を持つため」でいいじゃないですか。この1行の中で最初に出した「面接」という言葉をわざわざ別の言葉で言い換えて余計な手間をかけるより「いつ、なにを、やりたい」という構文でスパッと書くべきです。
また箇条書きのルールを守っていない
この人は本当に「同じ種類のものをまとめる」というグルーピングができないのでしょうね。箇条書きの語尾が揃っていません。
- 深く知ってもらうため
- ハードルを下げるため
- 知り合う機会が欲しい
体言、体言、用言。バラバラですね。
そして、箇条書きの最後を「~という狙いからです。」と括っているのであれば、箇条書きのそれぞれに対して末尾の締めを繋げても文章が成り立つ文体にした方が読みやすくなります。
- ~のためという狙いからです
- ~するためという狙いからです
- ~が欲しいという狙いからです
最初の2個も違和感ありますが、最後の「欲しい」は「狙い」ではなく、ストレートな要望ですよね。狙いなのであれば、まだ実現していないけれど、実現させたい目論みを列挙すべきです。たとえば
- 会社のことを深く知ってもらう
- ハードルを下げる
- お互いのことを知り合う
このように用言止めにして、狙いという意味合いときちんと繋がるように揃えるべきですね。別に箇条書きの形式がバラバラでも意味は分かりますが、大半の読み手は、列挙されているものの共通点を探しながら読みます。なので、違和感があるものを見つけると「なぜ?」「ナニコレ?」と考えてしまうのです。こうした無駄な思考は文章を読み進める障害になるので、避けた方が無難です。
口語調を使わない / 活用と接続を適切に
1ブロック、強烈な文章が混じっていました。いくら社内とはいえ、管理職にある人間が社内の「仕事の案内文」で書くべき文章ではありません。
以前参加したセミナーで新しい形式の面談をものすごいしている企業の担当者の話を聞いたりしたんですが、そこから「***資料」は重要!と言われ、じゃあ作ろうと内容を練り出しました。
えーとですね「面談をものすごいしている」は駄目過ぎます。「すごい」は名詞を修飾する言葉なので、「すごい面談」や「すごい頻度」といった言い方であれば良いのですが「している」という動詞に繋げて良い言葉ではありません。口語、会話のやりとりでは「スゴイいい!」「すごい綺麗!」みたいな使い方をされることはありますが、あくまでカジュアルな口語の世界の使い方。少なくとも、全社員が見るビジネス文で書くやりかたではありません。
どうしても「ものすごい」を使いたいのであれば「ものすごく」に変えて「ものすごく活用されている」といった言い方にアレンジすべきです。また、他社の担当者を指して「している」はありません。「されている」「ご担当」という言葉を使いましょう。人事の管理職さんですよね……。敬語、丁寧語、謙譲語、使えませんか?新人に教えるべき立場ではありませんか?あなたが使いこなせないで、誰が最初に若い人へ言葉の使い方を見せるのですか?
駄目な人の文章は一人称視点で時系列に並んだ物語になる
あと、先ほどの
じゃあ作ろうと内容を練り出しました。
ですが、別に目の前で何かが起きているのを実況しているわけでは無く、既に済んだことを皆に報告する文章です。であれば、
じゃあ作ろう、と、内容を練りました。
で良いのですよ。「練り」「出した」という、今まさに作業を始めた、という、その時点での物語の描写はビジネス文書では大抵不要です。あったとしても何かトラブルが起きた際の「実際にユーザーさんが行った手順の説明」などぐらいでしょうかね。
どうも、駄目な文章を作る人の会話や文章は、大抵「客観視した過去の出来事を述べる」のではなく「自分の視点(一人称視点)で時系列に並んだ出来事を実況中継する」ように語られることがあります。おそらく、物事を一度脳に貯めて、それを脳内でアレンジしてかいつまんで話すことが出来ず、起きたこと、実際に見たことを思い出しながら逐次言葉にするというやり方をしているのではないかと思います。
こういうやり方をされると聞いている側は最後まで結論が見えず、長い物語を追わなければ何を伝えたいのかが判りません。
口頭でのやりとりでそうなってしまうのは致し方ないかもしれません。個人の特性や能力に依存しますので。ですが、文章は一旦書いてから練り直す事が可能です。せっかくなので、書いた文章は、リアルタイムな会話では出来ない「推敲」という工程を経てリリースするようにしましょう。
……ってか人事の方ですよね……。それ、新人研修で「報告の書き方」とかいろいろ教えてませんでした?一体何を教えました?不安なんですけど……